赤ちゃんは大人の縮小版と思われがちですが、生きるためのいろいろな機能は未熟で、扱いを間違えると、後々、それが後遺症となる場合があります。
たとえば、赤ちゃんの頭部は相対的に重く、それを支える首の筋肉も弱いため、事故のとき体の他の部位より衝撃を受けやすいのです。
さらに、脳を保護する頭蓋骨や脳血管は、構造的、機能的にまだ完全ではありません。ゼロ歳児、とくに六か月までの赤ちゃんは、万一、縦抱きにした場合、前後に強くゆすると、ときとして脳出血を起こして後遺症が出たり、さらに死亡することさえあるといわれています。このことは、あやすつもりであっても、お父さんの強い力で赤ちゃんを前後に揺さぶったりしたときや、車の急ブレーキや急発進、長時間のドライブなどでもチャイルドシート内の赤ちゃんの頭が前後に強くゆすられるときにおこることも考えられます。
また、赤ちゃんは、男の子も女の子もおなかをふくらませて息をする※腹式呼吸ですから、おなかがふくらむのを妨げないことが大切です。健康な赤ちゃんでも鼻がつまりやすいうえ、うつ伏せ寝やおなかを圧迫するような姿勢で寝かせると酸素欠乏状態になります。
そういった場合、突然に心臓停止がくることも考えられます。
このようなことを考えると、ベビーカーでもチャイルドシートでもゼロ歳児、とくに六か月まではおなかを圧迫しない平らな姿勢で仰向けに寝かせてあげてください。動きが活発になる六か月以降も、前述した生理的な特性がまだ残っているので、赤ちゃんが眠った場合は、やはりおなかを圧迫しない平らな姿勢で仰向けに寝かせてあげてください。
チャイルドシートやベビーカーは、そういった赤ちゃんの生理的な特性を十分に考え、本当に赤ちゃんを守るべきものであるべきです。
一般財団法人 製品安全協会 ベビーカーSG基準のA型ベビーカー、B型ベビーカーの背もたれ角度や使用時間は、
チャイルドシートにも十分参考にできます。ほぼ同じころの赤ちゃんに使用するものですから、それを十分に参考にして応用してください。
赤ちゃんは、※体温調節機能が未熟です。チャイルドシートやベビーカーを使用するときは、環境温度に十分注意してください。とくに夏場の自動車内の温度は急激に上がります。ベビーカー内でも、強い日差しや地面からの照り返しで、お母さんの体感温度より高くなることもありますので注意が必要です。
幼い子どもを総称してチャイルドと言いますが、私は、「チャイルド」は幼児期の子どものことを指し、「ベビー」はゼロ歳児のことを指すと考えています。「チャイルドシート」という言葉は、「ベビー&チャイルドシート」という方がより適切ではないかと思います。
赤ちゃん用品は使いやすくて、しかもそれが赤ちゃんの生理や発育の障害になってはならないのです。
〝戸外での育児〟は、子どもの心身の健康づくりにたいへん大切なことです。
家の中にばかりいると、どうしても運動量が少なくなり、
その結果、寝つきが悪くなったり、
せっかく眠っても、眠りが浅くてちょっとの音にも目が覚めたりします。
また食欲不振に陥ることもあります。
これが続けば、子どもは不機嫌でイライラし、
落ち着きを失うことにもなるでしょう。
不思議と思われるかもしれませんが、
一日のほとんどをベッドで過ごしてまだ歩くことのできない赤ちゃんにも、
じつは〝外に出たい〟という要求があるのです。
そしてその要求を満たされた赤ちゃんは、目がイキイキとしています。
反対に、家の中に一日中閉じ込められている赤ちゃんは、
イライラしたり、お乳の飲み方が悪かったりして
元気がなくなる場合が多いようです。
私の希望をいえば、
歩き出したら、一日に三時間は戸外で遊ばせたいのです。
また、まだ歩けない赤ちゃんも、
どうせ眠ってばかりいるのだから外に出す必要がない、
などと考えたら大間違いです。
ロシアの育児書には、
冬の零下十五度でも赤ちゃんを戸外に出すこと、
そうすればバラ色のほおの子になり、食欲も出るし、よく眠る、
と書いてありました。
そういえば、中国のハルビンに日本人が多く住んでいたころ、
冬の間、日本人は赤ちゃんをほとんど外に出さなかったので、
春になったらほとんどの子が紫外線不足から、くる病にかかっていたそうです。
それにくらべ白系ロシア人は、
厳寒期にも、風さえ強くなければ赤ちゃんを連れ出していたので、
くる病にかかった子はまったく見られなかったといいます。
寒い季節には寒い国の育児から学ぶべきでしょう。
日光の紫外線だけでなく、
自然界には、われわれが気がついていない、
人間に大切な物理作用をするものがあると考えられます。
皮膚の表面近くにある毛細血管は、
冷たい空気に触れると縮まって血液の流れを少なくし、
暖かい空気に触れると血管は伸びてたくさんの血液を流して
体温の調節をします。
皮膚が自然の気温に適応できるようになると、
不思議なことにすべての面で、環境に適応できるようになります。
内臓も関連して丈夫になります。
実験によると、体温調節は生後二週間でも少しできますが、
調節機能をさらに活発にするには、
そのための環境が与えられなければなりません。
といっても急に寒さにさらしたのでは、
鍛錬どころか機能を狂わせてしまいます。
自然の気温の変化に合わせて、徐々に鍛錬をしていくのがいちばんよく、
秋から冬にかけてはもっとも適した自然環境です。
赤ちゃんの手・足が冷たくなりやすい場合は、
赤ちゃんの皮膚を心臓の方に向かって、手のひらでさすってください。
そうすると赤ちゃんの体はぽかぽか温かくなって、
手袋や靴下もいらなくなりましょう。
散歩にもどんどん連れ出して、冷たい空気に当ててやりましょう。
お母さんによっては、
お買い物に出かけるとき毎日連れていっているからだいじょうぶ、
というかもしれません。
とりあえず赤ちゃんの外に出たい欲求を満たしているようですが、
お母さんが買い物に気をとられすぎては、赤ちゃんは満足していません。
たとえ戸外にベビーカーで出かけるときでも、
赤ちゃんはお母さんの大きな愛情の中に包まれていたいと思っているのです。
うれしいことに日本には四季があって、
その変化が、たとえ都会の中であっても、
木々の色、よそのお宅の庭に咲く花、吹きわたる風や光にあらわれてきます。
ですからお母さんも、自然を楽しむようなゆったりとした気持ちで
赤ちゃんといっしょに散歩してください。
大人にとっても、散歩という全身運動は新鮮な空気を全身に送り込み、
新陳代謝の機能を高めてくれます。
お母さんも、赤ちゃんをベビーカーにのせてゆったり歩くことは、
いつもいいコンディションで赤ちゃんに接するための大切な時間、
ととらえてください。
<注釈>※体温調節機能
赤ちゃんは大人のように体温調節機能がうまく働きません。理由は五つあります。
① 皮膚・皮下脂肪が薄く、体の容積のわりに表面積が大きく熱を失いやすい。
②基礎代謝が大きく、体温が安定しにくい。
③人間の体は熱を放散させないために末梢血管が収縮し、反対に熱を放散させるためには末梢血管が拡張する。これによっても体温を調節しているが、このしくみを支配する自律神経の機能が赤ちゃんではまだ未熟で不安定である。
④大人は汗をかき、その汗が乾くことによって体温を下げることができるが、赤ちゃんの場合は発汗がまだ十分に行われない。
⑤ホルモンも体温を調節する機能があるが、赤ちゃんの内分泌系の機能はまだ未熟であるため、これがうまく行われない。このような傾向は新生児や低出生体重児に多く見られる。
また、赤ちゃんの生理的なしくみとして、寒いとき大人は体のなかにあるグリコーゲンを利用してふるえて発熱できますが、赤ちゃんは寒くてもふるえることができません。そのため赤ちゃんの肩、首、耳、わきの皮下や体のなかにある褐色脂肪組織と呼ばれる脂肪がエネルギーを産生し、体温を高めます。